フーリエ変換 >
食品粉体などの付着抑制,滑り性向上のため,多様な表面形状を作製しているが,出来上がった形状の評価に種々の手法がある。触針式の粗さ測定で一応の結果を得ることが出来る。近頃の測定器は優秀で,JISに規定されている粗さパラメータはボタン一つで得られる。後は,どのパラメータが特性に寄与するのかを考えるのが仕事となる。
MD処理は微粒子を投射して表面形成を行うので,投射する微粒子の径に依存した周期性を持った表面が形成される。そうした,周期性のあるパラメータ評価に,有効な手法としてフーリエ変換がある。フーリエ変換そのものは数学的手法であるが,結構,身近にも使われている。昔の音響装置ではグラフィックイコライザーという周波数別の音量表示があったりした。とりわけ,フーリエ変換が有効に使われている分野は,材料分析(振動分析)で,赤外線吸収スペクトル(IR)や核磁気共鳴(NMR)などでは干渉や緩和時間をフーリエ変換することにより短時間で測定が可能となった。とりわけ,FT-NMRにより核磁気共鳴の短時間測定によりMRIなどが実現されている。それ以外でも,結晶格子と電子線回折やX線ラウエ写真は逆フーリエ変換とフーリエ変換の関係にある。
フーリエ変換を実計測などに展開する場合,注意が必要である。具体的には,数学的には級数は連続であるが,計測データは離散的であるため離散フーリエ変換となる。離散フーリエ変換で重要なのはサンプリング周波数で,形状測定などでは測定の分解能に対応する。触針式の粗さ計では針先のR(一般的にはR=2µm,特殊に0.5µm)に該当する。単純に言えば分解能(サンプリング周波数)以下の領域は扱えないという当たり前の結論になる。あとは,縦軸はパワースペクトルと呼ばれ強度の項目となる。具体的には,音響装置では音量,光では光量などで粗さ測定では形状の度数と考えるのが自然で,通常では相対値(分布)を示す事になる。また,フーリエ変換は周期的な現象を扱うので,ランダムなものに対しては有効ではない。
数μm~数十μm程度のMD処理だと触針の粗さ計の測定レンジになるため,比較的簡単に評価が出来る。MD処理も開発が進みより細かい領域の評価が必要となっている。現在,微細粉末や抗菌効果ではsub-μ~μ領域の形状評価が必要となっている。この領域は一般的な粗さ計と原子間顕微鏡(AFM)の境界領域にあたり,広いレンジでの評価が難しい。また,走査型電子顕微鏡(SEM)などの適応領域だが数値化の信頼性に乏しい,本来は,2次元フーリエも実施したいのだがデータ点数が増大するなどなかなか課題も多い,にもかかわらず形状評価におけるフーリエ変換の適応は重要な課題であり付着抑制との関連も含めて検討を進めたい。