この世界に入ったキッカケってなんだろう? >

この世界に入ったキッカケってなんだろう?

 

 あのスピーカー、音よかったよね!そうそう、同軸2ウェイの。テープは2層塗りのtypeⅢが個性的でよかったなぁ。えっ、スピーカーケーブルはOFCより良いのがあったの?…なんて同僚と雑談して懐かしむことが多い。以前のオーディオやヴィジュアル製品はアナログで、もっとメカニカルだった。それゆえ壊れやすかったけれど、例えばビデオデッキはテープを入れてから回転ヘッドまでテープを引きずり出す仕組みは、βマックスとVHSで異なっていて、見ているだけでガチャガチャと面白かった。アナログからデジタルに移行したCDが登場したころから、メカが極端に減ってきた気がする。今ではCDですら売れず、ストリーミングサービスでダウンロードする時代。『モノ』が売れない時代なのか。

 学生の頃はオーディオに興味があり、高価な単品コンポーネントの雑誌やカタログをよく読んだ。そこに登場する色々な単語に胸を躍らせた…。

 

・ターンテーブルには『アルミダイキャスト』の削り出し…ダイキャスト?

・細線『アモルファス』ヘッド搭載…アモルファスって、なにっ??

・高密度『蒸着』テープ…ジョウチャク、初めて訊いた

・振動を吸収する『セラミック』コンポジット…セラミック?

・『DLC』保護膜…ディーエルシー???

 

 オーディオ製品は新しい材料を取り入れて新規性を出す風潮があったように思う。初めて訊いた単語はどれもインパクトのある響きで、どんな技術なのかを知りたくなって材料関連の大学に入った。大学4年の研究室を選ぶときに、同級生の言葉が記憶に残っている。『これからは薄膜技術の時代がやってくる、と父親に言われた』、彼の父親はいわゆる、ある自動車メーカのTier1の部長さんだった。『薄膜技術』について調べてみると、蒸着、スパッタ、イオンプレーティング、CVDなど、前述の雑誌やカタログで発見していた言葉だった。薄膜って面白そう、と思い、卒研テーマは『真空蒸着薄膜の太陽電池』を選んだ。ベルジャー、油回転ポンプ、油拡散ポンプ、各種バルブ、三方弁。この三方弁をどれだけ上手に切り替えられるのか、トットットットッ…というポンプの音に耳を傾けながら、滑らかにレバーを回していく快感!何度練習したことか。

 

 社会人になってからは、MEMS技術の中でECRスパッタやRFスパッタを使い、それ以降はイオンプレーティングやプラズマCVDにのめり込んだ。自然界に存在しない物質をプラズマエネルギーによって合成することができる醍醐味は、なかなか他では味わうことができなかった。現在はプラズマCVDでDLCを成膜するなかで、新たなコーティングに思いを馳せている毎日。それもこれも、キッカケは、オーディオへの興味から。様々な表面処理を複合させて新しい機能を発現したい野望を持っている、とはいってもあからさまにガツガツせずに、虎視眈々と狙いを絞りたいと思っている…。

 

 オーディオに関しては金銭的な余裕がないと、ハイエンドなものを手中にすることは不可能。上を見ればきりがないけれど、要はどこで満足するのか、落としどころも必要だと思ってます。で、聴いているのが70年代の英ロックがほとんど。高いオーディオが必要?と言われそうだけど、それは自己満足が優先するので。