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EHEDG

 

株式会社サーフテクノロジー 
研究開発部

 

 今回は,食品衛生の国際規格のガイドラインであるEHEDGとMD処理のお話。食品製造現場の様々な部品にMD処理を採用して頂いている以上,これは我々もしっかりと理解しておかなければと思いまして。色々と調べておりましたら,MD処理に関わってくる内容なんかもチラホラ。表面粗さとか,洗浄性とか。EHEDGとMD処理,どんな関係があるかな?

 

【EHEDGとMD処理】

 MD処理はコーティングではなく,表面に凹凸を形成することで付着抑制効果や洗浄性の向上,抗菌効果などを付与します。コーティングではないことで,剥離による異物混入の心配がないことから多くの食品製造部品に採用頂いています。食品製造で言えば,衛生管理の手法として2020年にHACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)が国内で義務化されましたね。ここで,HACCPと共に食品衛生管理の手法として知られているのがEHEDG(European Hygienic Engineering and Design Group)という国際規格のガイドラインです。EHEDGでは,食品加工機械に求められる衛生性の基準が様々な形で規定されています。この中で,食品と接触するステンレス鋼の表面仕上げに関する記載もあり,表面粗さで言えば算術平均粗さRa≦0.8 µmが求められています。これは,平滑で滑らかな表面が衛生面では有利とされていることなどによります。要は、平面の方が洗いやすいでしょ?ということで、簡単に洗えない表面の形状・構造として,孔や尖った頂点,深い谷間や亀裂などが挙げられています[1]。食品加工機械に採用されるステンレス表面などは通常,#700程度の磨き鏡面であったり,2B仕上げ程度ですが,これらの表面は一般的にはRa≦0.8 µmを十分満たしています。MD処理でも,基本的にはEHEDGのガイドラインの範囲内ですが,表面形状(凹凸)の形成により洗浄性の向上等の結果も得られており,必ずしも平滑面の方が衛生面で有利であるとは言えません。さらに,表面形状の評価法も含め再検討も必要だと考えています。

 

【EHEDG,MD処理は不向きなの?】

 MD処理は,形成される凹凸形状によって,表面の水濡れ性を制御できることから,基材の洗浄性の向上が可能であることを確認しています[2]。基材が滑らかで平滑であると,基材と汚れの間にうまく洗浄水などが浸透せず,汚れが浮きにくくなってしまいますが,MD処理で形成される凹凸が水濡れ性を良くすることによって,水が微細凹凸の汚れの間に浸透し,汚れを浮きやすくします。表面粗さが大きいと,その表面凹凸に食品や雑菌など汚れがひっかかっり,残ってしまうことなどから,衛生面で不利だよね?という考えも理解できますが,付着を抑制したい食品や原料,さらには洗浄方法などによって,適切なMD処理を選択することで,さらに高い衛生管理が可能だと我々は考えます。逆に,目的に対して不適切なMD処理を選択してしまうと,衛生面で問題となってしまったり,期待する付着抑制効果などが得られなかったりするため,目的に応じたMD処理条件の選定が重要です。

 

【ピカピカ表面vs.サラサラMD処理面】

 ヨーロッパなどで製造されている食品加工機械表面は,平滑性が非常に高いですよね。顔が映る位ピカピカのツルツル。EHEDGのガイドラインに沿った製造がなされていることが良くわかります。平滑性が高い,つまり鏡面であればあるほど良い!といった議論も各方面で良く言われおりますが,これらは一括りにするのではなく,目的に合わせた機械設計が必要であると考えます。また,抗菌性能についても平滑面よりも凹凸のある表面の方が高い[3]ことから,様々な観点からMD処理は衛生管理面で有効であると考えます。

 

【おわりに】

 Ra≦0.8 μmって結構粗れていてもOKなのね…と筆者は思っていたりもします。Ra≦0.8 μmで良いなら,あんなにツルツルピカピカに磨かなくても良いのになぁって。だって顔が映る程ピカピカ。不意に映る自分の顔面に何度びっくりしたことか…笑!Raなどの粗さパラメータの定義や,“平面”や“平滑面”などの言葉の使い方等,表面屋さんの当社としては,特に気を付けないといけないなと考えさせられました。

 

 

[1] EHEDG Guidelines, DOC8, 第3版,March (2018)

[2] ㈱サーフテクノロジー 他:“洗浄性改善表面処理方法及び洗浄性改善部材”,特許第7045043号

[3] T.Nishitani et al.“Antibacterial effect on Microscale Rough Surface Formed by Fine Particle Bombarding”AMB express (2022) 12:9