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粉体

 

 

株式会社サーフテクノロジー

研究開発部

 

 

  当社では,食品産業や医療機器産業を中心とした,様々な材料の付着抑制や滑り性向上のための表面処理を実施している。そもそもは,小麦粉等の粉体の付着抑制から発展しており,食品粉体を対象とする処理が中心となっている。

 

  粉体は粉(こな)でなく,粉“体”と称される。気体,液体,固体など“体”はある性質を持った集団のことらしい。気体,液体,固体は気相,液相,固相ともいうが,粉相とは言わないので,粉体は相よりは下位の概念なのだろう。概略的に考えると,離散的な固体の集合体を粉体と考えればよいのだろうか。離散的と言うのが曲者で,取り扱いを複雑にしている。通常,気体や液体,固体はマクロ的には連続体と考えられ力学的な取り扱いはシンプルになる。そればかりではない,『固体は神がつくりたもうたが、表面は悪魔がつくった(Das Volumen des Festkörpers wurde von Gott geschaffen, seine Oberfläche aber wurde vom Teufel gemacht.)』というのは,パウリの排他原理で有名なパウリの有名な言葉であるが,粉体付着は表面現象であり悪魔がつくった領域を扱うことになる。

 

  粉体のテキストを見てみると,粉体付着の主要因としてファンデルワールス力や液架橋力などが挙げられている。ファンデルワールス力の巨視的な発現としてはヤモリの足と原子間力顕微鏡程度しか知らなかったので驚きでもある。しかし,それらに関しては,違和感がある。当社の主要対象である,食品粉体では,粉体そのものの含水や官能基と基材(防錆のためほとんどがステンレス鋼であるが)への水分の吸着などから,むしろ水素結合(結合という表現に疑問もあり,相互作用ではないかとも思っているが)が大きく寄与していると考えるのが自然ではないだろうか。水素結合力はファンデルワールス力よりも大きいし,液架橋力が発生するには相当量の液滴が必要ではないだろうか。

 

  そもそも,水の学術的な取り扱いは難しい。ましてや,悪魔がつくったうえ,取り扱う表面は欠陥,コンタミの山ほどある実在表面である。材料表面は特殊な材料を除けば吸着水で覆われていると言われており,実際,吸着量等も容易に測定されている。それならば,通常の材料表面に親水性や撥水性は無いはずであるが,材料や表面構造で親水性や撥水性が測定可能であり,制御も可能である。当社も,それを売りにした商売も行っている。そこまで考えると,表面にモノ・レイヤーや数レイヤー吸着した水は,本来の水としての化学的・物理的特性を有しているかも疑わしい。

 

  どうも,粉体と言いながら,取り扱うべきは食品粉体であれば,マクロ的な粉体の形状や硬さや弾性率などの機械的特性だけでなく,粉体を構成する高分子鎖や側鎖と種々の欠陥を有するステンレス鋼表面とのミクロ的な相互作用も含めた,マクロとミクロの狭間を取り扱う必要があり難儀なことである。